「で、いくらで買ってほしい?」

「一千万」

私は素直に拓也の借金を返す分だけの額を要求した。
他の人ならもっと請求したりするのだろうか?
でも私は欲のために自分自身をお金に変えているわけではない。
借金を返す分だけ…それだけあれば十分。
でも、まさか自分自身をお金に換えてまで大金を用意することになるとは思わなかった。
それだけあの頃の私は拓也を失いたくなかった。
本当に…あの頃の私は馬鹿だったと思う…。
李音様は私の要求金額を聞くと何のためらいもなく札束をポンと投げ飛ばした。
こんな大金見た事もない…
そう思いながらも札束をゆっくりと数える。
九百九十九…うん、一千万きちんとある。
それにしてもその場で現金払いできるなんてやっぱり
お金持ちのやることは違う。

揚羽がお金を数え終わるのを確かめてから李音はゆっくりと口を開いた。
「確かに渡したぞ、その代わり今日からお前は俺のモノだ、いいな?」
この時点で私は李音様のモノとなりました。
でもこれでいい、いいんだ。

これで拓也が助かるのだから…。
それにいくら李音様のモノに成り下がったって言ったって私は拓也が好きなんだもん。
これからもこの先もその思いはずっと変わんないよ。
そう、拓也だって…
その時はまだそんな甘い考えを持っていた。
拓也を信じていたから。
本気で愛していたから。
好きだったから。
馬鹿だよね…
この後予想もしない悲劇に襲われることも知らずに…。

私はすぐその大金を持って拓也の元へと急いだ。
よかった、これで拓也は助かる。
そう思うと不思議と笑みがこぼれ出た。
自分の借金じゃないのにね。

でもこれで拓也はもっと私のことを大切してくれるんじゃないかと思ったから。
もっと愛してくれるんじゃないかと考えてしまっていたから自然と足取りが軽くなる。


「拓也、たく…ッ!」

ハッとそのまま息と一緒に言葉を呑み込んだ。
見てしまった…
出来れば見たくなかった…
声が出ない
信じたくない光景がそこには転がっていた。
拓也が知らない年上らしき女性とキスをしている。
二人は愛を確かめ合うような長く深いキスを交わた後、言葉を失って呆然と立ち尽くしていた私に気がついたのは女の方だった。

「んっ?拓也ぁ、誰この女ぁ」

甘ったるい口調で問いかける女。
時々揚羽を見ては勝ち誇ったように笑っているようにも見えた。
揚羽の拳がふるふると自然に震える。
その質問の答え、私が聞きたいよ
そう心の中で呟く。
答えが怖くて問うことができなかったからそっと心の中で。