マッサージを止めようとしない俺の腕に奥さんの腕の温もりが触れた

涙を流しながらその目は俺に終わりを告げていた








俺はゆっくりと
マッサージの手を止めた








部屋にはブザーが
鳴り響いているだけ

俺は横たわってまだ
温もりのある北川さんの顔を見つめていた

それから振り返って
頭を下げながら

『ご臨終です』

と最後の言葉を口にした

その瞬間、俺の目から
涙が零れ落ちた

それを気付かれない
ようにする為に、また
北川さんの顔を見た

意識を無くす瞬間も
息を引き取る瞬間も
全く苦しむ事はなかった

それだけが救いだった

奥さんの泣く姿を見て
子供も泣いていた

『パパ、眠ってるの?』

その言葉がまた涙を
誘っていた

子供に罪はない

誰にも罪はない





病室を出てからも
放心状態だった

1人になってみて
改めて考えてみる

北川さんが最後に会話をしたのは千穂だった

キスをしたのも千穂

抱き合ったのも千穂

最後に見たのも千穂

俺がしてやれる事の
全てだったと思う

今は千穂に幸せを
感じさせておいてやろう

明日ゆっくり千穂に
話してあげよう

何日も充分に寝てない
俺は静かに深い眠りに
落ちていった