ようやく千穂に対して
素直な自分になろうと
思えた矢先だった

最近体調が悪くて検診を受けに来た患者が居た

有名な会社の社長で
極秘の検診だと言う

時々居るんだよな
そういうVIPの患者

俺は院長の指名で
その担当になる事に
決まっていた

どういう意図なのかは
わからなかったが
それを受け入れた

VIPだという事で
失礼のないようにとの
注意を受けていた

そして院長は言った

『末期のガン患者だ』

俺にどうしろというんだ

先に死しかない患者に
俺は何をしろというんだ

『これも経験だ』

院長はそう言い放った

確かに俺にも色んな
経験は必要だった

それでも悩む

治療を施して、それでも命を救えない患者なら
沢山看取ってきた

それはみんな年も年で
VIPではなかった

今回はまだ30代だし
会社を経営している社長

初めての事が俺に
転がり込んできていた

家族のケアや会社の事情
色んな事を含めて
俺が出来る精一杯の事をしなければいけない