隣に女は居ない

誘われても断った

そんな気分には
なれなかったんだ

命の灯が消えた日

俺は慣れるのが
怖くてたまらなかった

人の死を日々の
出来事として
淡々と暮らしていくのが怖かった

部屋に花瓶を用意した

一輪刺し用の細い花瓶

人の死に向き合った日は花を買って帰る

恥ずかしさなんて
忘れていた

いつも寄る花屋は
同じ花屋だった

帰り道にある花屋

そこには色んな花の
匂いがした

そこで花を買って
家で花瓶に刺す

翌日には捨てる

いつまでも
引きずらない為に

自分のけじめだった
のかもしれない

その花を刺す事で
天国に旅立った人を
供養したつもりに
なっていたんだ

何も出来なかった
その無力さ

自分の無力さを
否定するかのように
花を刺していた

花屋の店員は、俺を
不思議な顔で見ていた

時々現れては
花を1本だけ買う男

たぶん不思議な男
だったに違いない

確かに1本だけ買うのは都合が悪かった

だからといって
まとめて買うつもりは
全くなかった