「おい、終わったぞ。いつまで寝ているつもりだ?」

無愛想な低く響くテノールに、意識が浮上する。

あれ?あたし寝ちゃったんだ

ここ、どこだっけ?


記憶を手繰るようにぼうっとした頭をふり、体を起こす。

視界に入ってきた歯科医療用の器具の数々、ようやく自分の置かれた状況を思い出す。

「やっと起きたか?いくら痛くないからって、俺の治療でぐうぐう寝た奴は初めてだぜ。」

「……あ、ごめんなさい。」

恥ずかしい。でも、どうして寝ちゃったんだろう。

「歯科治療の麻酔って寝るほど強くねぇぞ?何で寝れるんだよ?」

「さあ?何ででしょうね。」

…あたしは聞こえないくらい小さな声で呟くと、診療台から降りようとした。

眠ってしまった理由は何となく分かる。

昨夜は今日の治療が怖くてほとんど寝ていなかったんだから

「大方、今日の治療が怖くて、眠れなかったんじゃないのか?」

―――! 驚いた。この人あたしの心やっぱり読めるの?