【長編】Sweet Dentist

【アムール】でお菓子を作ったというだけであたしは幸せだったし、響さんへの願いを込めたお母さんのクッキーを完璧に作ることが出来たことは、あたしにとってものすごい達成感だったからだ。

実は、最初に作ったクッキーは、確かに美味しかったけれど、パパがあの時に作ったものとは、どこか少し違う気がしていた。

その時はそれが何だか良く解らなかったけれど…
響さんからお母さんの話を聞いて自分に足りなかったものにようやく気がついた。

あたしに足りなかったもの…
それは親として子を思う無償の愛だった。

それが解ってから、あたしは毎日繰り返しクッキーを焼き続けた。

どうしても響さんの誕生日を、あたしの作ったクッキーでお祝いしてあげたかったから。

きっと親にならないと、本当に子供を思う気持ちは解らないのだと思う。

だけど、アリスさんがどんなに響さんを愛していたかは感じることが出来た。

アリスさんの気持ちを自分にリンクさせると、大気が震えるような感覚でアリスさんの声が聴こえてくる。

アリスさんがいつもクッキーを焼きながら願ったこと…

―どうかこの子の笑顔が永遠でありますように―

―どうか誰よりも幸せになりますように―

あたしはその想いを生地に練り込む事で、あの日パパが作ったものと同じものにたどり着く事ができた。

この場所で、彼の誕生日に相応しいクッキーを作れたこと。

アリスさんの心に触れることが出来たこと。

それだけであたしは胸がいっぱいだった。