【長編】Sweet Dentist

学校までの車中で、響さんは昨日話すことが出来なかった事について話してくれた。

お母さんがイギリスで生きていた事。

事故の後、お母さんが死亡したとされた理由。

そしてその後のお母さんの容態も、順序立てて話してくれた。

その衝撃的な内容に、お父さんのこれまでのご苦労や、響さんの幼少時代の寂しさを思い、胸が潰れそうだった。

「…お父さんは昨日イギリスに発ったのね。
響さんはお母さんに会いに行かないの?」

「…迷っているんだ。会いたい気持ちはあるよ。
だけど、たとえ会っても母さんは俺が解らないんだ。
そう思ったら…急に怖くなったんだ」

「…怖い?」

「解らないんだ、自分がどうしたいのか。
ようやく母さんの笑顔と、ほんの少しの思い出を手に入れて、幸せだった頃を思い出した。
それが嬉しくて、心地良くて…。もうこれ以上母さんに関する何かを失いたくない。
そう思っている自分がいて…会わないほうが良いんじゃないかと思う部分もあるんだ。
そんな事あるはず無い、会わないまま死に別れでもしたらきっと後悔するって、頭では解っていても、実際に目覚めない母さんの姿を目の前に現実として見てしまったら、俺はまた大切なものを失ってしまうんじゃないかって凄く怖いんだ」

今までの自信たっぷりの彼からは想像つかない、まるで子供のような不安を抱える響さんに、彼の心の傷の深さを思い知った。