【長編】Sweet Dentist

一晩中父と語り明かし、母の思い出の品から写真を一枚抜くと、俺は実家を後にした。

空はいつの間にか薄っすらと明るさを取り戻しつつある。

冬の早朝の冷たい大気が、肺の中に浸透し、ブルッと一瞬体温を奪われた。

それでも…

ずっと忘れていた家族の思い出を手にした心は温かかった。

朝焼けに徐々に染まっていく空に、写真をかざしてみる。

薄明るい空が、やがて金色の筋と共に光に満ち溢れる。

その光の中に、幼い俺を抱いて微笑む父と母の姿が浮かび上がった。


たった一枚の写真。


それでも、俺にとってはかけがえの無い、幸せだった頃の思い出。


俺はそれを抱きしめるように胸ポケットにしまうと、自宅マンションへ向けて歩きだした。