【長編】Sweet Dentist

俺はほとんど祖母の手で育てられ、成長と共に父との心の距離は離れていった。

それには父なりに焦りを感じていたらしい。

更に、クリニックの運営などよりも、一番順調であって欲しい筈の母の容態は一向に回復がみられず、父の努力も虚しく時間だけが過ぎていったのだ。

父にとって唯一の救いだったのは、当初は『親父の跡を継ぐなどありえない』と言っていた俺が、親友の助言で歯科医師となり、跡を継ぐことを考えたことくらいだったかもしれない。

母はすでに25年眠り続けている。

20年以上植物状態で目覚めたと言う症例は未だかつて無いらしい。

再び目覚める可能性が低いことを解っていても、父は諦めることが出来ないで、母を待っているのだ。

全ての話を聞き終えると、父は「寂しい思いをさせて…本当にすまなかった」と俺に頭を下げた。