【長編】Sweet Dentist

飛び出した子供を俺に重ね、身を呈して護った母。

足で踏ん張ることも、両手で身体を支えることも満足に出来なかった筈の彼女を突き動かしたのは、日本に残してきた俺への愛情だったのだろう。

意識を失った母は、それ以来目覚めていない。

頭を強打したことによる植物状態。

脳死とは違い、呼吸器をつけることも無くただ眠り続けている。

声を掛ければ微妙に反応することもあり、手を握ればごくまれにだが反射を返して来る場合もあるらしい。

確かに自分の意志で生きているのは解るのに、目覚めることが出来ないのだ。

母が植物状態になり、日本へ連れ帰ることが不可能となったとき、祖父は父に母を忘れ再婚することを勧めたらしい。

まだ幼い俺を思ってのことだったのだが、父はそれを頑なに拒絶した。