【長編】Sweet Dentist

「まあ、座れ」

放心する俺にクッションを一つ手渡し、父はその場に座り込んだ。

受け取ったパッチワークのクッションに見覚えがある気がして、部屋中ありとあらゆる場所に飾られた、母の写真を見つめながらぼんやりと記憶を辿る。

霞が掛かった記憶の中に、確かにこのクッションは存在していた。

ハッキリとした記憶にはないが、多分母が作ったものだったのだろう。

4畳半ほどの小さな部屋だが、ここには母親に関する全てのものが保管されているらしく、どこか懐かしい香りが仄かに漂っていた。

所狭しと飾られた写真の中に、幼い俺を抱いて幸せそうに微笑む母を見つけ、胸が締め付けられるように痛くなった。

「母さんのものは、何一つ残っていないと思っていたよ」

ボソリと呟く俺に、父は瞳を伏せ苦悩の表情を滲ませた。

「お前の為だったんだ…」

擦れた声で理由を話し始めた父。

その内容に父の深い哀しみを感じた俺は

声が詰まって何も言えなくなってしまった。