【長編】Sweet Dentist

たかがお菓子一つ。

だけど、時にそれは、人の心を大きく揺さ振り人生すら変えることもある。

アリスさんのお菓子は、確かに、パパの人生を大きく変える切っ掛けとなったのだ。

「さっき千茉莉が響君との交際を認めて欲しいって頭を下げただろう? 
留学の事も、響君の事も、自分でしっかりと考えて意志を持って歩いている事に、実はちょっと感動したんだ。
親に何かを許してもらう時って、凄く勇気が要るだろう? …今日の千茉莉を見てて、お前はあの頃のパパよりずっと勇気があると思ったよ」

そういうと、パパは小さく溜息を吐いた。

「パパはね、洋菓子の道へ進もうと決めてからも、おじいちゃんにそれを中々言い出せなかったんだ。
絶対に許してくれないだろうと、頭から思い込んでウジウジ悩んでいてさ、受験が終わって卒業しても、このまま英語を教えてもらう口実で、お菓子を作りに来たいってアリスさんに洩らしたことがあったんだ。
そしたらさ…
『あなたの人生でしょう?自分のやりたい事をしなくてどうするの? 最初から出来ないと決めつけたら夢も何も無いわ。お父様を恐れていたら何も学べないし、前へ進むことも出来ない。あなたは永遠にお父様を越えられないわ』
って言われたんだよ」

一呼吸置いて、再びゆっくりと口を開くパパ。

その姿が、幼かった自分を自嘲しているようにも見えた。