【長編】Sweet Dentist

響先生は開けっ放しの玄関のドアを閉めると錠を落とした。

何も言わずにあたしを抱き上げるとリビングのソファーまで運んでそっと降ろしてくれる。

「紅茶でいいか?」

質問に答える声すら失ったままコクンと頷いて、先生がキッチンに消えていくのを見つめていた。

対面式のキッチンから紅茶の香りが漂ってくる。

紅茶を淹れている先生の瞳は、やはりあの日の記憶の中の彼のものだ。
嬉しさと切なさが同時に込み上げてくる。

響先生が…あたしの初恋の人だったんだ。

幼いあの日、蜂蜜色した夕日の中、悲しげな瞳で涙を流して振り返った金の髪。
ずっと忘れられなかった思い出の中の綺麗な瞳が、現実に目の前に微笑んでいる。

彼は…いつの間にかあたしの心をいっぱいに占めていて…

愛しさは後戻りできないくらいに、たった一人の男性に向かっていて…

こんなにも愛しいと思う気持ちを教えてくれたのが最初からあの人だったなんて…

こんな偶然ってあるんだろうか。

叶わない想いなら

どうして神様はこんな悪戯をするんだろう。