【長編】Sweet Dentist

「ああ、親父はお袋がいつか帰ってくると信じて待っている。
裏切られたと認めたくないんだろうな。俺が4歳のときに出て行ったらしいからもう25年も待ち続けているわけだろう?バカだよな」


「そんなこと無い…響先生のお父さんは素敵です。きっとお母さんをとても愛しているのよ。
好きで好きで、諦めたくても諦められなくて、忘れられたら楽になるのにどうしても捨てきれない想いがあるんだと思う」

千茉莉が涙を溜めて潤んだ瞳でそう言うのを聞いて胸が痛くなった。

まるで千茉莉自信が苦しい恋をしているようで…

一人で悲しみに耐えているようで…


『おにいさん、やっと会えた』


さっきの言葉を思い出す。


千茉莉には誰か心に住んでいる男がいるんだろうか?


「まるで自分の気持ちを告げているみたいだな。千茉莉も誰か想う奴がいるのか?」

一瞬瞳が揺らいだのがわかった。

確信した。

千茉莉には好きな奴がいる。


嫉妬で心が掻きむしられるようだった。

「それって…さっきのおにいさんとか言う奴か?」

俺の声は動揺していたかもしれない。

だけど聞かずにはいられなかった。

一瞬何を言われているのかわからないと言った表情をしたが、すぐに何か思い当たったようだ。

静かに思い出を語るように話し出した彼女は、まるで俺の知らない初めて逢った女のように見えた。


俺の天使はやはり手に入らない遠い存在なんだろうか。