【長編】Sweet Dentist

「…すごい」

「ああ、俺も亜希が本気で弾くのを初めて聴いたよ。すごいな」

体が震えるほどの感動があたしを包んで離さなかった。



だけどアンコールで亜希さんがピアノの前に座った時に、それ以上の衝撃があたしを襲った。

一瞬だけ、でも確かに亜希さんは響先生を見てからピアノに向かった。
その曲を響先生に捧げるように流れる旋律。
繊細に鍵盤を滑るその指から切ない想いが流れ出してくる。


――亜希さんは響先生のために弾いている。


胸を締め付けるような切ないメロディーがあたしの心を揺さぶった。
亜希さんは…響先生の事をまだ好きなんだ。


透き通るような切ないピアノの音色が、亜希さんの心そのものを語っている。

あたしには…敵わない。

どんなに大人のフリをして着飾ってみても

どんなに響先生を想っても

あたしはやっぱり子供でしかない。