【長編】Sweet Dentist

聖良さんはあたしの気持ちに気付いたのだと思う。

そろそろ席に着きましょう。と、話の流れを変えてくれたおかげで、あたし達は指定された席へと移動した。


程なく始まったリサイタルで、あたしは物凄い衝撃を受ける事になった。


亜希さんがステージに現れた時、周囲からどよめきが上がった。

真紅の薔薇を思わせるタイトなドレスを着た亜希さんは妖艶なオーラを放っていた。
誰もが惹かれるだろうその立ち振る舞いはとても優雅だったし、何よりもその瞳がすごく綺麗だった。
きっとあの瞳が響先生の言っていた、夢を追いかけている輝く瞳なのだと思う。

…あたしも夢を語っている時はあんな瞳をしているんだろうか。

スポットに照らされ浮かび上がるピアノの黒に咲く真紅の薔薇。

その薔薇がピアノの音色を奏でた時、あたしの時間が止まった。

胸の奥が揺さぶられるような暖かいものが溢れてくる。

肌が粟立ち体が感動で小刻みに震えてくる。

多分そんなに大きな女性では無いと思う。

あたしとそんなに変わらないかもしれない。


だけど…


ピアノを弾いている亜希さんはすごく大きかった。

指先から、体から、髪の先からさえも、音楽が溢れ出るように、亜希さんの優しさが溢れ出しているのがわかる。

心を癒すように、想いを伝えるように、温かく満たされるようなピアノの旋律があたしの心を虜にしていった。