【長編】Sweet Dentist

気が付くと聖良さんに質問攻めにあって、見たことの無いほどオロオロしている先生の姿が目の前にあった。

いつものあたしならここぞとばかりに一緒になって響先生に突っ込んでやりたい所だけど、今はそれどころじゃない。
あたしはちょっと惜しい気がしつつもふたりの会話に割って入った。

「ちょっ…ちょっと待って下さい。一生の記念になるケーキですよ。あたしみたいな高校生が作っていいものじゃないでしょう?」

「おまえ誰にもまねできない世界でひとつだけのお菓子を作るのが夢だったんじゃないのか?ウェディングケーキは世界にひとつだけのその人の思い出にいつまでも残るものだ。こんなチャンスは滅多に無いぞ」

「そんなこと言ったって。あたしはプロじゃないんですから…」

「プロだから上手いって事は無いだろう?杏ちゃんが言ってたぞ。千茉莉の作るお菓子はパワーが込められているって」

「そりゃ、パワー込めますよ。食べてくれる人が元気になるように、幸せになるようにって思いを込めて作るのは当たり前じゃないですか」

「だから、そのパワーで最高に幸せになれるウェディングケーキを作ってみたらどうだって言ってるんだよ」

先生の言う事はもっともなんだけど…でも、一生の思い出になるケーキをあたしなんかが作って良いんだろうか。
あたしには…やっぱり自信がないよ。
みんなに祝福される幸せいっぱいの花嫁と花婿を更に幸せに出来るパワーなんて今のあたしには無い。

自分のことで精一杯で、誰かを癒してあげるとか優しい気持ちになるとか、そんな余裕がないの。

自分の中のパワーがどんどん無くなって、どうやったらお菓子にパワーを込められるのかさえ忘れてしまいそうなのに…。