ハスキー

耳にかかるハスキーな声。
いつもと同じ,軽く香る香水が神経を落ち着かせる。
強くあたしの腕を掴んで無理に座らせた張本人。

荒井。そうだ,校長か誰かが確か『荒井クン』って...
校長たちに気をとられていて分からなかったんだ。
店長の言う通りに帰っていれば。
後悔が胸にさっと過ぎる。

『おいナル,お前ここで何してんだ?バイトやってん『お客様は何をお飲みになりますかぁ?
ねおんはぁ,このノンアルコールのカクテルがいいんだけどぉ。』
話をスルーして接客を押し通す。一瞬,荒井が呆気にとられたがじっとあたしを見て
『いくら化粧濃くても俺は騙せね―ぞ。』の一言。

あ――も―――これはダメだわ。
バイトもやめなきゃなぁ...
心の中で落ち込んでいると
『こうなると明日は家庭訪問だな。』
と訳の分からないことを言い出した。

『はぁ?!意味分かんないから。
あたし明日は家開けとくから。』
『お前このこと学校に言ってもいいのかよ?
目の前にはうちの学校の上のやつばっかだぞ?』
脅しか。もう従うほかなさそうだ。
『...わかったから。
出来るだけ短めにしてよ?』