薔薇姫-バラヒメ-



"月が紅く染まる頃―…"


脳内に響く、あの声。



信じられない。


どうして月が紅くなるの?



不気味で、けど美しく輝くその紅い月に、あたしは目を奪われていた。


そんな時、急に突風が吹く。


「きゃっ!」


思わず顔の前に手を出し、目を瞑る。


風がおさまり、あたしはゆっくりと目を開いた。



「―――こんばんは」



あたしは目を見張った。


「え…」


目の前にいる男の人は、誰?


その人は、ベランダの手すりの上に立っていた。



暗闇に輝く金髪。


身を包む、真っ黒な衣装。



それに…紅い瞳。



その何もかもに、あたしは見とれていた。


「…今宵は、月が美しい」


手すりからふわりと降り立った彼は月を見上げ、微笑んだ。