「お兄ちゃん、あの、部屋が…。」
「まだ夕飯の時間じゃない。本宅を出るんだ」
「……。」
救いを求める様に、雪月は顔を上げそう言い掛けたものの、陸はそれだけ言うなり体を翻してしまう。
ムキになって怒ってくれたら、自分だって文句の一つや二つ言い返せるのに。
表情も無く当たり前の様に言われたら、反論するだけ馬鹿を見る気がする。
来た道を戻って行く兄の背中を眺めて、雪月は長い瞬きをした。
空気よりも薄い。
兄の中でまるで自分は風の様な存在なのだろう。
ただ立ち止まるだけ。
すれ違ってすぐに消えてしまう。
「雪ー?」
「!!!」
ぼんやりと立ち尽くしていた雪月の耳元で、囁く様な声が聞こえる。
驚いて振り返ると、にんまりと笑みを浮かべる海斗がいた。
「おかえり雪月。」
