「雪月ちゃん。」
学園を出てすぐの所で、黒塗りの長細い車が横付けされる。
スモークがかかったその窓がゆっくりと下りたと思えば、中から一人の紳士が顔を覗かせた。
「伯…、理事長。」
「いいんだよ。もう学園の外だからね。今から帰りかい?」
「はい。」
ぎこちなく頷いた雪月に、紳士は穏やかな笑みを浮かべた。
こういう甘みを帯びた表情は、海斗とそっくりだと思う。
「ああ、雪月ちゃんの部屋なんだけどね、離れと庭の改築工事が終わるまで、本宅に移動になるけどいいかな。」
「はい。さっき海斗さんに聞きました。」
「そうか。今夜は遅くなりそうだから、先に食事はとってくれて構わないから。そう伝えておいてくれるかい?」
「はい。伝えておきます。いってらっしゃい。」
「ああ、いってくるよ。」
微笑んだ雪月に、紳士は目尻を下げて片手を小さくあげた。この紳士こそが、海斗の父であり、この学園の理事長でもあった。
