あの瀧っちゅー芸人は、チェックのベレー帽、チェックのスーツ、チェックの靴、チェックのネクタイを付けていた。
何やってるんやろ、と思って勢いよく教室を出た。
そして向こうの教室に向かう。
スリッパの音が、パコパコいう。
非常口の明かりしか灯ってなくて、あとは真っ暗。
だけど走りつづけた。
そして、教室の近くへ来たらひそひそとバレないように向かう。
声のボリュームが大きくなってくる。
漫才や…。
教室の目の前に来て、コッソリ聞いとる。
「ちょっと待った」
石田さんの声や。
「笹倉、今つっかかったやろーっ!」
「はは、ごめんごめん」
笹倉さんの声も聞こえた。
「番組で決まったからには、瀧口君とクラウンズでいいコラボ見せたいねん」
…………今石田さんは何て言うた?
瀧口言うたよな?
うそやん。
「瀧口君、眼鏡つけてる時とほんま雰囲気違うからそっちに意識してまうわー」
笹倉さんも瀧口言うてる…。
あの瀧口、眼鏡外すとあんなになるんか…。
くりっくりした丸い大きい目、細い眉、ぷるぷると潤った唇…。
羨ましい顔しとるやんけ…。
「ちょっとトイレ行ってきますわ」
瀧口の声や…。
どうしよう、ここにいるんことバレる!
私は、戻ろうとした、が。


