いつも笑わせてくれる貴族



ベンチにゆっくり座る。




「いつから受けてんの?」



「結構前……」



「そうか……。その手大丈夫か?」

冷めた手を笹倉さんの温かい手で包まれる。


傷の付いた手。

親にカミソリで切られた。


痛々しい手。

でも皆はその事に触れない。





「……大丈夫です」

泣きそうになるわ。
本当に感情なんて出ないのに。

何でやろ。





「ゆかり」





名前を呼ばれて笹倉さんの目を見る。




「泣きたい時は思い切り泣いてええんやで!!」





目に溜めていた涙が、ゆっくり地面に雨のように落ちる。