「さっきの人かっこええよなぁ」
真帆が言う。
「え!?」
私は口を思いっきり開き、驚く。
「ゆかり知らんの?あの人芸人でイケメンランキング上位なんやで」
うちにはイケメンに見えへん。
きっと、恵美も……いや、皆そうや。
「なぁ」
後ろでノートに何か書き取ってる瀧口を呼ぶ。
すると瀧口は口を半開きにして、手を止めこちらを呆然と見る。
こいつぐるぐる眼鏡のせいで瞳が見えん。
「……なんだよ?」
ノートを腕で隠す不自然な動き。
「さっき来た芸人さんかっこええ?」
「あの人かっこよすぎやろ!!」
いきなり声を大きくする。
必死すぎて唾が飛んできた。
「ちょっと唾飛んだわ。しかもそれ何なん?」
私が見ようとすると、素早くノートをしまう。
「……もうええ。…………田村!!」
瀧口をほっといて、田村を呼ぶ。
「あぁ?」
ニコニコしながら近付いてくる。
「あのさっき来た芸人さんかっこええ?」
「あの人かっこええわぁ……」
真剣な目や。
これはほんまやな。
あり得へん。
私にはそう見えん。


