姫守の城 (仮)

 食材が入った袋の重みで、指が麻痺し始める頃、事務所(兼自宅)のあるビルにつく――のだけど、出入り口に知った顔を見つけた。

 白いコートに白いポンチョ、ひざ下まである白いスカートに白いショートブーツ姿で、白い息を吐きながら僕を凝視している。

 十六夜早織(いざよいさおり)。

 このビルディングの所有者にして管理人、そして請負人。推定、二十代前半、身長百六十センチ前後。繊細な顔立ち、腰まである長い髪、病的に白い肌、儚げな雰囲気、それらが相まって、住人からは《深窓の令嬢》と呼ばれてる。僕としては《雪女》を正しい評価として推奨したい。


 異を放つ麗人。

 十六夜早織。

 唯。

 彼女はぺたんこだった。

 天は二物を与えない 。

 神様は残酷だ。


 彼女は優美な足取りで手前数センチまで詰め寄り、僕の眼を覗き込む。
 そして妖艶な微笑みを浮かべて「麻里(まさと)。おいしい紅茶を頂いたの。一緒に飲みましょ」と返答を待たずに踵を返し行ってしまった。僕の意見は認められてないようだ。まあ断ることなんてできないのだけど。
 ああ、智にカレーを作ってやるんだったか…、仕方ない後回しだな。

「ごめんな」

「死ぬべきだね」

 機嫌をそこねたようだ。