姫守の城 (仮)

 悩んだ末に導き出したコメントは「味がしない」だった。凡コメント。くだらない。

「でしょうね。香りと色付けした程度だもの」

 そう言うことは先に言っておいて貰いたい。

「それにしても殺風景ね」

「はい?ああ、話が変わったんですね」

「そう、代えたの。広がらない話はもういいわ」

「すいませんね。甲斐性なしで」

「夫婦のような会話だわ」

 多分、違うだろう。あんたの夫婦象は歪んでる。どんだけ冷めてんだ、その夫婦。

「私が初めて観たときのまま…」

 呟いた彼女は少しだけ、ほんの少しだけ寂しそうに見えた。無表情は変わらないのだが。デフォルトで無表情、よく言えば澄まし顔。笑顔も向けてくれるが表現が難しい。口角が少し上がるだけ、無表情の延長線上と言えばいいだろうか。

「お母様が揃えたまま、ね」

 この八畳二間の部屋にはテーブルとソファー、ベッド、それしかない。僕が来た時から変わらない。用途には事足りる。
 余計な重みは必要ない。
 余計な想みは必要ない。