コージロー




ゆうちゃんが決めたその名前を私はちょっと変だと思ったけど、よそのワンちゃんと名前がかぶる事はないだろうと、私達はすぐに「コーちゃん」なんて呼ぶようになった。


でも「コーちゃん」ってしか呼んでいないから、自分の名前が本当はコージローだったなんて、コーちゃんは知らなかったかもしれないな。



コーちゃんって呼ぶとどこからでも慌てて走って来て、おっきな瞳をキラキラさせて首を左右に傾げ、「そろそろゆうちゃんが帰って来るよ」と話しかけると、ちゃんとわかっているよって、また首を左右に振りながら、玄関まで走って行った。




我が家はみんな名前にちゃんが付いて、私はゆうちゃんをコーちゃんって言ったり、コーちゃんをゆうちゃんって言ったり、ゆうちゃんも私の事をコーちゃんなんて呼んでめちゃくちゃだったけど、コーちゃんだけはクンクン言って、犬なのになかなか ワン なんて吠えなかった。




ワクチンも狂犬病の注射もフィラリアの薬も大嫌いで、病院では震えながら私の腕から離れようとしなかった。



玄関の扉の左上の隅に、コーちゃんがいる印のシールが誇らしげに貼られて、それはこれからもずっと一緒の証しだから、絶対に外したりはしない。