「うそよ!」

夏希の叫びにも、中島は答えない。

「中島さん…騙したの?」

夏希の瞳から、涙が流れた。

「オホホホ!騙される方が悪いんだよ!」

半田の言葉に、夏希は鐘の前で崩れ落ちた。

「ひ、ひどい…」


そんな夏希の姿を、楽しそうに見ていた半田は、中島に近づき、

「さあ!乙女ケースを、こちらに」



しかし、中島は乙女ケースを離さなかった。

「どうした?中島!こちらに…」

半田が力ずくで、乙女ケースを奪おうとした時、

凄まじい銃声が辺りを切り裂いた。

「うりやあ!」

興奮状態となっている乙女ピンクが、マシンガンを乱射して、広場に現れた。

「チッ!」

銃弾の一発が、肩をかすった為、半田は中島から離れた。

「あたしと、姫の時間を邪魔するなあ!」

乱射しながら、走ってくる乙女ピンクから、半田と下っぱは逃げるように、周りに散らばった。

「待ちやがれ!」

ピンクは、逃げる下っぱ達を追いかけていく。

鐘の前には、崩れ落ちた夏希と、中島しかいない。

まだ中島の手には、乙女ケースがあった。

そこだけ静かになった空間に、

ピンクの後ろを追いかけて来た理香子と、楓が姿を見せた。

「中島?」

理香子は、中島と…そのそばで泣き崩れる夏希を見て、息が止まった。




「あたしの…乙女ケースだけが、目当てだったんですか?」

夏希の言葉に、こたえない。

夏希は立ち上がると、中島の手にある乙女ケースを、取り返そうとする。

「返して!あたしの乙女ケースを返して!」

しかし、中島は強く握り締め、離すことはない。

「返して!返してよ!」

無表情の中島は、まるで手だけが別の人格があるかのように、離すことはない。



その時、パチンと激しい音が、鐘を鳴らしたかの如く、広場に響き渡った。


「女の子に、涙を流させるなんて…最低だよ」

2人の間に入った理香子は、平手打ちを中島にした。