劇場版 乙女戦隊 月影

「装着!」

乙女ブラックに変身した蘭花は、下っぱを蹴り倒した。

「ブラック…幻影」

一斉に、四方から木刀を突きだした下っ腹は、ブラックの体に簡単に突き刺さったことに驚いた。

だが、それは幻影だった。

ブラックの体を突き抜けた木刀は、互いの体を突き合った。

スピードの乙女ブラックは、蘭花でも健在だった。

アイドルとして、多忙を究める蘭花は、足だけは人一倍使っていた。

それが、蘭花の強みであるが、アイドルとしての弱点でもあった。

カモシカのようにしなやかな足は、少しアイドルには似つかわしくない。

幻影で、敵の攻撃をかわし、包囲網から脱出したブラックは、大仏殿の屋根の上に、着地すると、身を屈めた。

「残念だけど…まだ戦う気はないのよね。下っぱくらいで、貴重なムーンエナジーを消費できないわ」





「早奈英さん!」

シルバーと鹿女を見失った九鬼は、夏希とは反対方向に池に沿って走ると、上へと向かう石段を、下っぱと対峙しながら上がっていった。

広大な東大寺内を、下っぱ達が走り回っていた。


逃げ惑う人々と鹿の中で、南大門を潜ったばかりの理香子達は、目を丸くしていた。

逃げ惑う僧侶に、木刀で襲いかかる下っぱ達。

「どうなってるの!」

状況を理解できない理香子と違い、妙に納得する楓。

「これが、戦隊ものというものかあ」

何度も頷く楓の後ろで、わなわなと拳を突きだし、震える桃子。

「あたしはただ…姫といっしょに、観光をしたいだけなのにいいい!」

桃子は、下っぱ達を睨み、乙女ケースを取り出した。

「装着!」

変身と同時に、マシンガンを兵装した乙女ピンクは、下っぱ向けて、乱射した。

「うりゃああ!」

銃弾の雨が、大仏殿前に降り注ぐ。

逃げる下っぱ。逃げる僧侶。逃げる観客客に、逃げる鹿。

「あっ!昨日の犯人!」

楓は、嵐山乱射事件を思い出した。

「姫!今のうちに!」

ピンクの言葉に、楓と理香子は逃げた。

取り巻き達は、もうとっくに逃げていた。