奈良駅から、真っ直ぐ奈良公園を進んでいき、春日大社の手前で左に曲がると、

世界遺産である東大寺へと続く道に入る。

左側に広大な公園と、右手にはお土産屋が並んでいる。

我が物顔で道を塞ぐ鹿。

他の学校の生徒や、クラスメイトが、鹿と戯れる中…一目散に、大仏殿を目指す月影一行。

たこ焼きから、お好み焼きにスイッチした蒔絵。

南大門の石段を登る為、九鬼は車椅子を持ち上げた。

向かって右にある吽形。左にある阿形。

高さ8.4メートルある像は、わずか69日で作られたと言われている。

九鬼は、その圧巻な姿に圧倒された。

左の阿形の遥か上には、板場がある。

あまり知られていないが、昔そこに盗賊が、住んでいたのだ。


また車椅子を持ち上げ、南大門を降りると、大仏殿は目の前だ。

「大仏見るのに、金かかるんかよ。やめて、焼きそば買おうぜ」

罰当たりなことを言う蒔絵。

「うん?」

九鬼は、車椅子を止めた。

「生徒会長!」

早奈英も気付いた。

「闇の波動!?」

先頭を歩いていた蘭花も、足を止めた。

「え?」

ぼおっとしていた夏希の前に、立ち上がった鹿がつぶらな瞳で、見下ろしていた。

鹿は蹄で、夏希の顔を殴ろうとした。

「夏希!」

九鬼の叫びに、夏希ははっとしたが、よけれない。

「危ない」

誰かが飛び出してきて、夏希に体当たりをした。

夏希を抱き締めて、転がったのは、中島だった。

「中島さん!?」

中島は立ち上がると、驚く夏希の手を取って、走り出した。

「逃げるよ!」

「え!?」

夏希は戸惑いながらも、中島に引かれ、走り出した。

大仏殿の前にある池に沿って、右側に向かって走っていく。

「夏希!」

九鬼が後を追おうとしたが、近くにいた観光客が周りを囲んだ。

そして、頭を黒いタイツを被ると、下っぱになった。