「下がうるさいみたいね」

三門の上に登った夏希と蒔絵は、1メートル程の幅しかない本堂を囲む通路に、身を潜めていた。

「やつらも、重要文化財には手を出さないでしょ」

夏希は安心したのか…大欠伸をした。

綱を伝いながら、直角に近い階段を上がり、たどり着いた安らぎの場所で、ずっとぼおっとしていたくなる。

夏希は、ついさっきの乙女ガーディアンとの戦いも忘れそうになる。


蒔絵は、ずっと携帯をいじっていた。

誰にメールをしてるんだろと、ちらっと携帯を覗いて見た。

メールではなく、RPGを無音でやっていた。

どうやら、修学旅行中に、クリアを目指しているらしい。

「…」

夏希は、蒔絵から目を外すと、

三門から見える京都の町並みを眺めた。

古都と言われるが、見下ろす町並みは、そうは思えない。

バスで前を通った京都タワーが、目に入った。


「九鬼…大丈夫かしら?」

夏希は、ばらばらになった九鬼達を心配した。

だけど、九鬼なら…大丈夫と、なぜか思えた。


「きっと…大丈夫」


だけど、夏希は…九鬼が変身できないことを知らない。


「あっ」

近くから、声がした。

反射的に、夏希は声がした方を見た。



「あ」

夏希も、声を出してしまった。

階段を上げてきたばかりの男子学生と、目があった。

その男子学生は、清水寺であった少年だった。

ハンカチを拾って貰い…たった一瞬、目が会っただけの少年を、なぜ覚えていたのか…。

それは、簡単だった。

一目惚れだろう。

「あ、ああ…」

口ごもる夏希に、階段から通路に完全に体を出した男子学生は、頭を下げた。

「どうも」

男子学生は、頭を下げた。