この部屋にはテレビは無いが
古いデッキがあった

焼けたアジを、皿に二匹入れ
すぐにリュックを漁る




そこに、Dhiran CarのCDや

真木と作った、オリジナルの曲も入ってる




―― キッチンに立っていた
カッパの動きが止まった


俺はベースを取り出し
壁を背にして、それにあわせて弾く



低音は夜、響くから
アンプに繋げていなくても
館の近くには家があったし
なんとなく気が引けて
思い切り弾いてはいなかったけど


ここは雑居ビル街、しかも屋上



アンプは通してないけど、思い切り弾いた





――― カッパは、無意識だと思うが
家でCDをかけていたり
テレビで音楽番組がついていると
いつも一緒に、小声で歌ってる



ちょうどこの前Nステに
Dhiran Carが出た時も
一緒に歌っていたんだ



…すぐに、ハッとした様になって
止めてしまったけど


Dhiranは、イギリスの男性バンド
かなり低音のヴォーカル

それを『女の子』が"同じ音程で'歌ったのだ



確信があった




しかも
カッパはカッパらしい超常能力で
『一度見たもの、
聞いたものを確実に覚える』

多分、車が運転出来るなら
ここからあの館まで
一発で帰れるだろう気がした



カッパは
「ごはん出来たよ」と俺を呼んで
俺もテーブルの前に座り、頂きますをした




俺達の曲が始まると
奴の箸がとまる




カッパの
ラムネ色の薄い目に、濃い色の何かが宿り

その瞳が静かに、
泡立って行くのが見えた