玄関前のフロアまで
ベースと、灰皿を持って歩く
腰を降ろして
左に玄関の扉 境の壁があってキッチン
真正面に出窓、右に食器棚
出窓の桟には
瓶詰めになった模型の船
――― 空には月
森を越えて海が見える
弾くのは Dhiran Carの Moon
少しすると、フロアと奥の部屋を分ける
ステンドグラスと木製の扉を開けて
カッパがソロリと起きて来た
上の寝間着だけ着て、下は履いていない
まだ引き攣っている、左足
…そういやコイツは『音』に敏感だった
「 ごめんな 」
カッパは俺の前にしゃがんで
膝を抱え、首を振る
「 …同じ音、なんだ 」
「 ん? 」
「 …一番最初の"記憶'は
丸くて棒が付いた、真っ黒なドア
そこを開けたら、低い低い、ボーンて音
後は、嫌な匂いと、ピーナッツ 」
「 …古いクラブみたいだな
横濱にはまだ何軒か、そんな所がある
酒だけ出して、料理は出さない 」
「 …うん
"何時もは出さないけど'って言ってた
…丸い高椅子に座らされて
その向こうに、男の人が居た 」
しゃがむカッパの頭を触る
カッパは『?』と、
こちらに向けて、頭を下げた
「 …これは、誰にやられた?
今回の傷じゃなくて
最近の傷だって梅川さんが言ってた
ハサミか何かで、無理矢理切られた時に
出来た傷じゃないかって 」
――― カッパは黙っている
「 …お前、女の子なんだからさ
色白いし、目も碧いし
ちゃんとしたら、かなり可愛いぞ? 」
「 ……可愛くて良い事なんか
一つも無いよ 」
「 …誰かに、やられたのか 」
カッパは、顔を伏せたまま
コクリと一度だけ、頷いた


