―― また走る音

さっきの影と
走って来た方向は同じだが
今度のは、俺の横で立ち止まった



黒いシルエットは膝に手を置いて
粗く息を吐いてる


「…あ…今の奴
どっち走ってったか分かりますか?!」



そう問いかけて来た声は、高校生くらいか



さっきの奴は
何だか、ただただ爆走してたから
方向なんかわからないけど




「…多分右に
ここ、左行っても海しかないから」


「ありがとう!じゃあ左だ!」


「……」


そしてまた彼は走り去ってしまった


「…何なんだ」




正直、
この辺の治安は、あまり良くない

不良が居るとかそういうんでは無くて
もう少し、深い感じだ


観光地である明るい所と
少しヤバイ場所が、裏表にある



…世界なんてどこも
そんなもんだと思うけど




再度、鍵をかけようと振り返ったら
扉の横に、何かしゃがんでいた


「 ……… 」



白っぽいボウズ頭のソイツは
まだボリボリと、
ひたすらキュウリを食っている



…そのカッパは別に
俺に話し掛ける気も無いらしく
ただ周りに耳をそばだてているだけだ


逃げたい様子なのはわかったが
それよりも

『何故そんなに
キュウリを食っているのか』が
気になった