こうしてライヴは進み
見える所だと
一番後部とステージ横
設置され動かされる撮影カメラが
静かに、歯車が回る様な音をたてる
8ミリも使っている様だ
俺達の前のバンドが
演奏を開始したので
人波を割って、ステージ裏へと向かう
緑くんと赤池さんが
すれ違う松田さんと会話していた
灰谷は、
ステージへの境の暗幕の前で
深く、静かに 息をする
そして
何処か遠くを見る目で
幕に手をかけた
その時、観客席から
トオヤ と 絞る様な声
それを合図に
俺達の名前も叫ばれ始めた
灰谷が少し驚いて
「 ……何で? 」と呟く
俺は笑って
「 おまえの名前だろ 」
と言った
「 …だって
ここでやる事なんか、誰にも言って無い 」
赤池さんが
「 ここ一ヶ月の間に、ライヴやったよね
そのお客さんが、ここでやる事を知って
当日チケットで
入って来てくれたんだよ 」
灰谷は
「 …Cheaって、凄いんだね 」と
人事の様に言っていたが
「 叫んだあの人は
確実におまえの歌が聞きたくて
来てくれた人だよ 」
そう言うと
何だか困った顔で
一生懸命、
両手の平を、腰で擦る


