緑くんはベランダの格子に寄り掛かり
「 旨えー 」と上を向く

物干し竿には、おむつに使う
綿の白い布が干されていた



その向こうの景色は
団地と公園




俺も隣家との仕切り壁の前にしゃがみ
カチンと音をたてて
煙草をくわえ、火をつける



"ん"とアルミの灰皿が渡され
ありがとうと受け取った





「 ……青山さあ 」


「 ん? 」


「 今日、もし本当に
あのボウズが来たら、どうすんの? 」



「 ……正直、その場にならないと
わからないな

頭で考えられなくなるから 」



「 …そんな青山、見た事ねえな 」



「 押し倒しそうだ 」


緑くんが煙草を浮かせてビクッとなる




「 …ホントは
そういう奴なんだよ 俺は 」





「 ……お前が19で、
向こうが16だっけ?

当時真木ちゃんと話した時
そんな事、言ってた覚えある 」



「 そうだね
まだ俺は大学生だった 」




「 …それ以降、彼女おらんの?

コクられてるのは何度か見たけど 」




「 あれ以上の気持ちになれない 」



「 ……向こうはどうなんだろうな 」




「 さあ…
来るかもわからないし
今考えても、仕方ないかもね


当時、真木がさ 」



「 うん 」



「 あの屋上を
"天上のエクレシア"って言ってた 」



「 それ何? 」



「 エクレシアは
"集会、集い"って言葉から
派生したものなんだけど
"教会"って意味で、今は使われてる


そこを守ってた神は
昔、大親分だった爺さん
御遣いは、カレー好きの医者 」







「 …すげえ幸せだったんだな
その時 …おまえ 」




それに黙って、笑ったら
緑くんが 泣いてしまった