横濱
中華街の裏
港が見える丘公園の側
初夏の、紫に近い夕暮れの空を
ちょっと背を伸ばしながら眺めてみる
海の向こうの、赤い光が点滅していた
ここには昔、
白い『マリーナタワー』と言うのが
立っていて
植物園などもあって
週末は
デートスポットになっていたらしいが
その跡地に今は、雑貨倉庫が並んでる
タイル張りの
半円を描いた茶色い広場には
金網で出来たごみ箱がひとつと
常緑樹の横に、水銀灯が一本
輸入雑貨類の社名ばかりのシャッターには
夕暮れ時から、ほとんど人の動きも無い
俺はそこでのバイトを終えて
最後に、裏口の鍵をかける
色々な木材をチェックして
倉庫内の所定の位置に運ぶ簡単な作業
人と話さなくていいから、楽だ
―― そんな事を思っていたら
勢いよく走る足音
真後ろを、物凄い速さで
駆け抜けて行く奴がいた
「 うお?! 」
隣の倉庫との、細い隙間道
その大慌てな白っぽい影は
何故か必死な風情とは裏腹に
――― 口にキュウリを、
一本くわえていた
…横濱にカッパ…?
"それ"が走って来た方を
ゆっくり振り返って見てみると
点々と、道にキュウリが落ちていた…