―― 屋上に戻る間
俺はかなり早足で
あずるの肩に回した手も
強く、掴んだままだった
その間 彼女は何も言わない
闇には、完全から欠けて行く
白い輪を伴った月と
それに照らされた洗濯物が
羽音をたてている
止め忘れていたデッキから
『アヴェマリア』が、微かに流れていた
―― 後悔は無い
俺は あずるの前に膝を付き
その小さな、両手を握る
ただ彼女はずっと
俺の顔を見つめている
「 …ごめんな
今、俺が 悪党みたいな顔に
なってると思う 」
「 なってないよ 」
あずる は 柔らかく笑った
「 …怖いだろ
きっと、男の顔してるから 」
「 ……最初から
私には リュウジは 男の人だったよ
だから、横濱で 逃げた 」
あずるの左側のピアスから
少し血が出ている
そっと触れ
指で、その血を拭う
「 …ごめん
多分、俺の服に引っ掛けた 」
しゃがんだまま、腿に肘を置き
その間に立ったあずるの
耳に、唇を触れ
呟いた
「 ――これより、絶対、痛いぞ 」
「 …いいよ 」
そう言って
俺の再度の口づけを受け
ゆっくり閉じる目は
やっぱりラムネ瓶みたいな
碧に濡れていて
オレンジ色の間接照明の下
『 …リュウジ 』と
耳元で
掠れる、思いもかけない甘い声で
甘えるあずるに、囁かれた後からの
ぶっ壊れた俺の言動っぷりや記憶は
正直、あまり思い出したくない
……… マジで恥ずかしい