『行ってはいけない』


 頭の中で警笛は鳴り続けるが、俺は操られたように、少し躊躇いながらも、そのドアを開いてしまった。


『……や、涼平。何かあった?』


 セミダブルのベッドで、上半身を起こした秋の躰には、何も纏ってはなく、満面の笑顔を俺に見せ、話しかけてくる。

 綺麗に浮かんだ鎖骨は、服から覗かせる時よりも艶かしく淫靡に見え、俺は一瞬、見惚れてしまった。

 だが、そんな時も僅かな事で、秋の隣に視線を動かした途端に、絶望へと変わってしまったのだ。

 秋の隣には、行為を終えて疲れてしまったのか、彼女が静かな寝息をたて、秋に寄り添う様にして眠っていた。

 勿論、こちらも何も身に纏っていない状態で……。


『……秋……、これは、一体……』


 事の顛末を秋に問う。


 凄く声が震えている。


 奥歯がカチカチと鳴っている。


 喉を通る唾液が余りに固くて、嫌な音が鼓膜を震わす。


 そして額には脂汗が浮かび、顳を伝わり、静かに顎へと流れた。


『先に言っとくけど、誘ったのは俺じゃないから。
 俺は拒否したんだけどね』


 今にも膝から崩れそうな俺に、全く悪びれる様子もなく、秋は淡々と説明をしだしたのだった――。