「桃、僕がしたんだ」
「‥葵さん?」
「見たでしょう?“我を失った”僕を」
「‥ぁ」
先輩たちを傷付けた記憶は無い。
でも、傷付けた事を体が覚えている。
感覚が‥、今もまだ残っている。
「僕から桃やスミレを守る為に、先輩は僕を抑えようとして‥」
僕が傷を負わせてしまった。
「傷を負ったんだ」
桃はその大きな瞳を見開いた。
明らかに動揺しているその瞳は、ゆらゆらと水面の様に動く。
そんな顔しないでよ。
まるで、桃が悪い事したみたいじゃない。
「桃、僕を殴りたかったら殴ったっていい」
大切な人を傷つけたのだから。
僕は挑発するような目を桃に向けた。
金ちゃんも、華ちゃんも、先輩も何も言わない。
しばらくの沈黙が、流れる。
ゆっくりと桃が立ち上がった。
そして歩んで来るその足は、僕の前で止まった。
やっぱ、殴られるよな‥。
床と桃の爪先だけを映した視界を瞑し、
来るであろう衝撃を
僕はただ待った。

