ボクは反射的に浦さんの背に跳び付いた。
すると、どさりと桃の体が地面に落ちて、ボクが代わりにその拳を受ける。

「‥か、はっ‥」

後ろで倒れていた紅が、勢い任せに浦さんを殴り飛ばした。
カシャンと音を立てて、浦さんの眼鏡が落ちる。

地面に叩きつけられた浦さんは、今の拍子で頬に傷を負い、鮮明な赤い血が流れていた。
ふらりと立ち上がった紅の前に浦さんは踏み込むと、その長く鋭い爪で

もう一度、紅の胸を裂いた。

「や、やめ‥て‥」

殴られた腹部が苦しくて、上手に息が出来ない。
ギリギリと押し付けられる様な痛みに、ボクは顔を歪めた。
人形の様に力無く倒れる紅の隣で、ボクは地面に膝と手を突いて、体をなんとか支えた。

その時、ボクの体がふわりと宙に浮いた。
足が地面に届かず、ぶらぶらと揺れる。

「‥っ、ぅ‥ぁあ」

浦さんから片手で首を掴まれただけで、浦さんと同じ目線まで上げられた。
ボクは首を掴んでいるその手を、両手で爪を立てて握り返す事しか出来なかった。

息が出来なくて、酸素を求めて息を大きく吸う。
でも、ヒュッ‥と空気が微かに通る音がするだけで‥‥。
だから、止めて。とか、嫌だ。とかそんな言葉も出なくて。





本当に、何も通じなくて‥。