「‥浦、さん」
震えた声で、こっちに近づいてくる人の名前を呼んだ。
でも、返ってくるのは足音だけ。
ボクは桃の前に、震える足を動かした。
紅はうずくまって腹部を抑え、こっちを見ていた。
ボク、何か覚えがある気がする。
これに似たような状況、前にもなかった?
ねぇ‥、浦さん。
浦さんはふと立ち止まると、さっき紅を切り付けた爪に目をやった。
紅の血が付いたその爪。
それを口の方へ運ぼうとした時‥
「止めろっ!!」
紅は立ち上がって、浦さんのその手を押さえ付けた。
ボクは浦さんが立ち止まった事に、ひどく安心していた。
本当は、今の浦さんが怖くて怖くて。
でも、近づきたくないとは思えなくて。
矛盾した気持ちが、ぐるぐると胸の中を廻っていた。

