ゆっくりと顔を上げた浦さんは、こっちに視線を送った。
どくり、と心臓がわけの分からない恐怖で跳ねる。
冷汗を背に感じる。
‥今のボク、蛇に睨まれた蛙みたいじゃない?

「葵、“我を失った”のか?」

静かに紅は浦さんに尋ねた。
‥“我を失った”‥?
浦さんは何も答えない代わりに紅に襲いかかった。

「‥紅っ!!」

隣にいた桃が叫ぶ。
あまりにもそれは突然の事で、ボクは頭がこんがらがった。

「血が、無くなったんだな‥っ!!」

さっきまで、今まで
浦さんはボクの後ろで笑っていたのに。

どうして、こんな事になってるの?

対処しきれなかった紅は、体を投げられて体育館の壁に激突した。
ガクリと首を落とした状態の紅の頭からは、赤が流れ出す。

「‥っ、てぇ‥」

それを目の当たりにした桃は、紅に駆け寄ろうとした。
ボクは、その場から動けなくて‥‥

「紅っ!」
「駄目だ、来るな!!」

紅は真紅の瞳を光らせて叫んだ。
その言葉に桃は足を止めるけど、間に合わない。
浦さんが、桃の腹部に勢い良く拳を送った。

「‥っ!?」
「桃!!」

その場に倒れ込んだ桃を掴み、さらにもう一撃をくらわせようとする浦さん。
紅は慌ててその手を掴んで制した。

「っ、お前‥桃に手ぇ出したな。‥タダじゃおかねぇぞ」
「‥‥」

紅の真紅の瞳の色が深くなる。
深く、深く
それは咲き誇った薔薇の様に。

そして、今の浦さんと同じ様な姿になった。