「アイツ、ヤル気だな」
「何を?」
「葵さん、気をつけた方がいいかも」
「‥あの子?」
先輩と桃は、同時に頷いた。
「次はお前が獲物か?」
「は?」
「あの子、気に入った人は絶対に自分のモノにして、必要無くなったら直ぐに捨てるみたい」
そういう話、よく聞くって華ちゃんが言っていたよ。
桃は真剣な眼差しで僕に警告する様に言ったけど‥
僕はスミレしか眼中にないし。
っていうか、“契約”しているんだから離れられない。
というか、僕は離れる気もない。
だから、あんな子気にしなくてもいいのに。
「よし、終わったよ」
桃はトントンと書類を束ねて、机の端に置いた。
それを合図に、先輩はカップを下げ始めた。
「葵さん、きっと今頃スミレは、公園にいると思うよ?」
「今日、此処には来なかったし、窓から広場見てみたらよ、部活にも行ってねぇみたいだかんな」
確かにここから見える広場には、スミレの姿が無かった。
それだけで、物足りない気になる。
スミレはある程度、今の自分の周りの事を教えてもらっている。
唯一、誰からも教えて貰っていないのが
僕との関係。
スミレのお母さんから、付き合っている事を教えようかと勧められたが、僕はそれを断った。
1年でも、中学と高校じゃ環境がかなり違う。
今のスミレはきっと、不安で心が不安定な状態だろう。
だから、無駄に神経を使わせたくなくて。
“契約”しているって事もそれと同じ。
「ほら、行くぞ」
「‥何で」
僕は気が乗らないんだから。
放っておいてよ。
しかも、今からスミレに会いに行く気なんでしょ?
冗談止めてよ。
なんて思いながらも、足は正直に動くもので。
スミレに会える。
そう思うと、例えスミレが記憶を失っていても、嬉しい事には変わりなかった。
「‥ちょっとだけ、だからね」
生徒会室を出た僕は、外に出て冷たい空気に当たって、
ひとつ
大きく深呼吸した。