LAST contract【吸血鬼物語最終章】




「海なんて何年ぶりやろなぁ」
「私も久しぶりに来たわ」

防波堤に上って海を眺めた2人は、最後に来たのはいつだっけ。と話していたり。

「なんか泳ぎてぇかも」
「えぇ?寒いでしょ」

こっちもこっちで。
てか、先輩泳げないでしょ。

「やっぱいいなぁ~、海って」

スミレは砂浜に降りて、大きく伸びをした。
すぅっと息を吸い込んで、閉じていた目をゆっくりとひらく。

「アオちゃんは海が好き?」
「そうだね、何か心が穏やかになる」
「そぉ?ボクは落ち着かない気になる感じがする」

一定な波の音が心地いい。
子守唄の代わりになりそうだって僕は思う程。
なのに、落ち着かないと言うスミレ。

「だってさ、見られてる感じがする」
「何に?」
「‥アオちゃん」

海をぼーと眺めては、下を向く。
そしてまた海に見入るスミレは、海に恋い焦がれている様だった。

「アオちゃんが吸血鬼の時の瞳の色ってね、この海みたいな青なの」

その言葉に釣られて、僕は海を見た。
そうなんだ、と。
いつもは空の色の様な色というのは、鏡を見れば分かる。
でも吸血鬼の時の自分を、僕はまだ見た事が無かった。

「だから‥、なんかドキドキする」

また下を向いて、スミレは少しずつ歩き出した。
僕もスミレの後を追って歩く。
砂浜に、僕らの足跡が残る。
小さな足跡と、大きな足跡。
急に立ち止まったスミレは、しゃがんで何かを手にした。
それは

「‥綺麗」

丸くなったガラスの欠片。
僕が前にした様に、太陽に向けて、そのガラスをじっと見つめる。
光を反射する度に、キラキラと輝くそれ。

「ねっ、綺麗だね」
「ああ、そうだね」

僕もそれを覗いて、頷いた。
するとスミレはそれを僕に握らせる。