「…そういえば、そんな事…あれって聖治、だった?」
「うん。あの時は助けてくれてありがとう」
「助けたなんてほどの事じゃ…」
「俺にとっては、そうだったから」
相変わらず腰に抱きついていた俺は、視線の高さを合わせる為に起き上がり、微笑んだ。
途端に、悠斗は眉を下げると、申し訳なさそうに、
「ごめん。俺、ちゃんと覚えてなくて」
そう言って謝った。
悠斗は、優しい。
それは、誰に対してもそうだ。
だから俺の事を邪険に扱えなかった事も知ってる。
もし今ここにいる事が、悠斗の優しさからくるのだとしたらと思うと、とても不安になる。
「悠斗、そんな顔しないで。そんな顔されたら、俺が泣かせたみたいだ」
「!…バカ!誰が泣いてんだよ。泣いてないだろ!」
心外だと言わんばかりに声を張り上げた顔は、ムッとしたような表情になっていて、クスリと笑ってしまう。
「うん。ごめん」
「…じゃあ、ついでにあのバーでの事も教えろよ。俺、あの時の事もほとんど覚えてない」
「そうだろうね。歩けた事が不思議なぐらいだったよ」
少し茶化すように言うと、顔を歪めて「仕方ないだろ。あの時は…」とだんだん尻すぼみになっていきながらぶつぶつと呟いていた。


