【奏】雪に願う事

「泰生先輩
マラソン頑張ってください」



「よく知ってんなぁ…」




「いつも窓から見てますもん」



「おまえなぁ…勉強しろよ」



そう呆れながら言いつつも
目が優しいんだ…。



本当…泰生先輩に

嵌ってる…。



いつもその瞳に
囚われてしまうんだ。




ポケットから
飴を1つ取り出した。


はちみつレモン味。


「疲れた時は甘い物で
糖分補給です。
体育が終わった後にでも
食べてください。」



驚いた顔をした後
口角をクイッと上げて
笑顔を作ってくれた泰生先輩。



「ありがとうな」



そう言って私の掌の
飴を取った瞬間
泰生先輩の指先が掌に触れて

それだけでドキドキする…。



「じゃあ、俺も行くから」



「はい、体育頑張ってください」



後姿を見送るけど
泰生先輩が振り返る事はない。



いつもと同じ…。


わかってるけど…

…ちょっと…寂しい。



って…こんな事で
めげてなんかいられない!!!



泰生先輩と話せて
飴も受け取って貰えて
自然と顔が綻ぶ。


そんな私を
澪が見逃すはずもなく…。



「健気だね~」


「だって、好きなんだもん」


「はいはい

でもさ、正直なところ
冷たい泰生先輩よりも
いい人って
たくさんいるよ?」



「そんな事ないもん

泰生先輩…本当は
すごく優しいんだよ」



「本当、心暖は
泰生先輩一筋なんだから…。

応援するから
頑張りなよね」




「…ありがと」



小さく呟いて…



ギューっと思わず
澪に抱きついた。



「澪、大好き!!!」



「はいはい

わかった、わかった」



うぅ…
澪にも
軽くあしらわれちゃってる…。