【奏】雪に願う事


「あっ…ヤベ…」


泰生先輩のその声に
思わず顔を見上げた…。


苦笑いを浮かべ
ちょっと困った表情の
泰生先輩。


小首を傾げると…。



「せっかく心暖がくれたのに
潰れちまったかも?」


バツが悪そうに
泰生先輩が持ち上げた紙袋は
少し…つぶれてた。




2人で顔を見合わせて
思わず
どちらからともなく笑い合った。




「開けていいか?」



「ダメ!!
また作り直してきます」



手を伸ばしたけど
泰生先輩はひょいっと交わし
器用に包みを開いた。



絶対、中身も潰れてる。

しかも、
元も可愛くない四角の形。




「なぁ、これって
元の形って何?」



「えっ…正方形の四角です」



「ふ~ん」


不機嫌そうな声を出しながら
泰生先輩は一口で…食べた。



「あぁ!!!」



「うまいっ」



そう言いながら
私にだけ向けてくれる笑顔…。



嬉しくて…涙が零れそうになる。




「何、泣いてんだよ?」



「初めて…泰生先輩の笑顔見た…
嬉しい…嬉しすぎます…」



「あぁ…心暖の前だと
顔が緩みそうになるの
必死で堪えてたんだよ」



照れてる泰生先輩を見て
思わず笑ってしまった。



「笑うな

それにいつまで
敬語使ってんだよ?」



「えっ?」



箱からもう1つ取り出すと
泰生先輩は目の前に
それを差し出した。



「そのままかぶりついてみ?」



えっ?


見上げると
にこやかに笑ってる…。



「ほらっ、早く」



急かされて一口食べると
口の中に濃厚な甘さが広がった。




「本当うまいな」



え…えぇ?!


残り食べたの?


それって……間接チューだよね?