もう終わり…。
終わりの筈なのに…。
泰生先輩の右手が
頬に伸びてくる。
「傷つけてごめんな…」
「……フッ…ふぇ…
気に…しないで…ください」
どこまで泰生先輩は優しいんだろう。
でもね
今はその優しさは…要らない。
滲んだ視界から見える泰生先輩の
表情からは何も読み取れない。
でも、ちゃんと振られた事ぐらいわかってる。
「振った子に…こんな風に…ヒック
優しくすると…
…勘違い…ヒッ…されますよ」
言葉にならない言葉を紡ぎだす。
優しくされたくない。
だけど…
切ない気持ちでも
その優しさを感じていたい…。
「おまえに…心暖になら
勘違いされていい」
……はい?
意味がわからなくて
心暖って呼ばれたのが嬉しくて
思わず泰生先輩を
真っ直ぐに見つめた。
「……最後に
…名前…呼んで…貰えただけで
もう…充分です…」
そう言った瞬間
緩んでいた左手が
きつく握り締められ
引き寄せられた。
……何がおきたの?
視界にあるのは…泰生先輩の…。
えっ?!
…なんで???
抱きしめられてる?!
頭が…ついていかない…。
そのまま、目蓋を閉じた私に
くぐもった声が
耳元から聞こえる。
「最後、最後って
連呼すんじゃねぇよ。
もう…俺の事
好きじゃなくなったのかよ。」
そのまま強く抱きしめられた。
最後だから…
都合のいい夢見てるのかな?
だって…こんな事
ある筈がない…。

