【奏】雪に願う事


一生懸命、気持ちを込めて作った
ガトーショコラ。


味はお昼休みに
澪のお墨付きを貰った。



ハートの形には出来なかったけど
正方形の形に切り分けてきた。


小さな小さなケーキ。



泰生先輩から伸びてくる手を
静かに見つめた。



これで…終わり。



堪えきれなくなった涙が
頬を伝う。



最後が泣いているなんて
そんなの嫌だから
俯いた先に見えた
泰生先輩が紙袋を掴んだ瞬間。




気づかれぬよう
袖で涙を拭った。



満面の笑みで
顔を上げた先には
怪訝そうな表情を浮かべる
泰生先輩。



やっぱり…
迷惑だったんだろうな。



それでも…


受け取ってくれた事に
感謝しながら

必死で笑顔を作った。




「今まで
ありがとうございました」



頭を小さく下げ
これで何もかも終わった…。



気持ちも終わらせなきゃ…。



身体を捻ろうとした瞬間
左手首に熱さを感じた。



驚きのあまり見上げた先には
眉を寄せ見下ろしている泰生先輩




「いつ…迷惑だっつたんだよ?」




「えっ…?」




何で怒ってるの?




「いつ俺が迷惑だって言った?」




「…1週間ぐらい前…
階段で泰生先輩が
友達と話してるの
聞こえました…
本当、気持ち押し付けてばかりで
すみませんでした。」



「……ごめんな」



……聞きたくなかったな…。




「わかってました。

最初から…わかってたけど
好きって気持ちばかり突っ走って
本当にごめんなさい。

でも、もうしないので…
泰生先輩も気にしないでください」



最後は
笑って終わらせたかったのに
笑いながら零れ落ちた涙。



左手に感じていた温もりが
ふっと緩んだ。



このまま離れていけば―――…。